小規模宅地等の特例
小規模宅地「家なき子」特例は使えるか
— 被相続人と共有していた自宅を、別居の子が相続する場合
よくある論点を一般化した解説です。設例:被相続人(親)の自宅を、別居の子が親と共有していた。子は3年超前から賃貸住宅に居住。親の配偶者はすでに死亡し、親は独居だった。子がこの自宅(親の持分)を相続する場合、いわゆる「家なき子」特例は使えるか。「持ち家(共有持分)があると使えない」「趣旨から見て持ち家がある人は対象外」という見方を見かけますが、いずれも誤りで、条文要件を満たせば適用できます。
一般的な解説です。個別の事案への当てはめは、事実関係により結論が変わることがあります。適用にあたっては専門家にご確認ください。
◎ 入口の前提:被相続人(親)が独居(配偶者なし)
設例では配偶者がすでに死亡しているため、被相続人は独居です。家なき子の入口条件(配偶者・同居法定相続人の不在)を満たします。※被相続人の自宅に同居していた法定相続人がいないことが前提です。
1. 結論
◎ 別居の子は家なき子特例を使える。共有持分を持っていることは妨げにならない
「共有持分(持ち家)があるから使えない」という判断は誤りです。家なき子の判定は「持ち家を"所有"しているか」ではなく「過去3年以内に自己等の所有家屋に"居住"したか」で行うためです。設例の子は賃貸住まいで、共有している被相続人の自宅には住んでいないので、持分の有無は関係しません。
2. なぜ使えるのか(2ステップで判定)
ステップ1・入口条件
被相続人に配偶者・同居の法定相続人がいないこと
→ 独居ならクリア
→
ステップ2・家なき子の中身
判定は「所有」でなく「居住」。子は賃貸住まい=自己所有家屋に居住していない
→ クリア
→
結論
共有持分は妨げにならず
家なき子が使える
条文の文言(措法69の4③二ロ/国税庁タックスアンサー No.4124)
「相続開始前3年以内に…取得者・その配偶者・三親等内の親族・特別関係法人が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く)に居住したことがないこと」/さらに「相続開始時に居住している家屋を過去に所有していたことがないこと」(平成30年改正)。
設例の子に当てはめると、次のとおり要件を満たします。
当てはめ
- ① 子は賃貸住宅に居住=自己(等)の所有家屋に居住していない。これが「家なき子」の典型です。
- ② 判定は「居住」で見るため、子が被相続人の自宅の共有持分を持っていても、そこに住んでいなければ要件に影響しません。(仮に被相続人宅に住んでいた場合でも、被相続人の居住用家屋は判定から除く救済規定がありますが、設例ではそもそも住んでいないため、この除外規定を使うまでもありません。持分が不利にならない直接の理由は「居住していないこと」です。)
- ③ 現に住む賃貸を過去に所有していない(平成30年改正の追加要件)。賃貸なので満たします。
3. 「共有持分があると不可」がなぜ誤りか
誤りの正体
「共有持分=持ち家の所有だから不可」は、要件を「所有」で読んでしまった誤りです。正しい判定基準は「(過去3年の)居住」と「現居住家屋の過去所有の有無」。持ち家(持分)を持っていても、そこに住んでいなければ関係ありません。「所有」と「居住」を取り違えないことが要点です。
4. 使える「範囲」の注意(可否とは別)
減額の対象範囲
特定居住用宅地等の80%減額(限度面積330㎡)が効くのは、敷地のうち被相続人の持分に対応する部分だけです。取得者がもともと有していた持分は相続財産ではないため、減額の対象外です。
5. 確認すべき前提・要件(1つでも欠けると不可・要注意)
| 確認事項 | 結果と扱い |
| 被相続人に配偶者がいないこと | いれば配偶者取得で無条件80%減額が正解。別居親族による家なき子は使えない |
| 被相続人の自宅に同居の法定相続人がいないこと | いればその同居親族が優先。別居親族の家なき子枠に入れない |
| 取得者の賃貸が第三者所有であること | 取得者の配偶者・三親等内親族・同族法人の持ち家だと不可 |
| 取得者が現に住む賃貸を過去に所有していないこと | 自分の持ち家を売って住み続ける等でなければOK(平成30年改正) |
| 取得した宅地を申告期限まで保有すること | 相続開始から10か月まで保有が必要(保有継続要件) |
| (参考)居住継続要件はない | 家なき子は同居親族と異なり、取得者が申告期限まで住み続ける要件はない(保有だけでよい) |
| 申告手続・添付書類 | 相続税申告書に小規模宅地等の計算明細書を添付。家なき子は賃貸借契約書・現居住家屋の登記事項証明書等の添付も必要 |
6. 「趣旨から見て持ち家がある人は対象外では?」への回答
「家なき子は持ち家のない人を救済する特例だから、持ち家(共有持分)がある人は賃貸住まいでも対象外」という見方があります。趣旨としては一理あるように聞こえますが、結論は誤りです。理由を4点に整理します。
◎ 正しい理解(条文要件をクリアしていれば適用できる)
- ① 判定は条文の文言による(租税法律主義)。家なき子の要件は「3年以内に自己等の所有家屋に居住したことがない」であって、「持ち家を所有していないこと」という要件は条文にありません。持ち家があっても、そこに住んでいなければ要件を満たします。課税・非課税は条文の文言で決まり、趣旨を理由に条文にない要件を足して納税者に不利にはできません(課税要件明確主義)。
- ② 立法趣旨も「持ち家所有=不可」ではない。平成30年改正の趣旨は「持ち家を親族や自分の同族会社に形式的に売却して"家なき子"を作る節税」を封じることでした。追加された要件も「3親等内親族・特別関係法人の所有家屋への非居住」「現に住む家を過去に所有していないこと」で、いずれも居住や形式的移転を問題にしており、単に持分を持っていること自体を排除する規定ではありません。
- ③ 持分が不利にならない本当の理由は「居住」で判定するから。要件が問うのは自己等の所有家屋への"居住"の有無です。取得者は被相続人の自宅の共有持分を持ちますが、そこに住んでおらず賃貸住まいなので、持分は不適用事由になりません。
- ④ 「持ち家の有無」と「その持ち家への居住」は別。もし取得者が被相続人の自宅とは別に、自分の居住用の持ち家を持ち、そこに3年以内に住んでいたなら要件アウトです。しかし設例では、持分は被相続人が住んでいた自宅で、取得者自身は賃貸住まい。要件が問うのは「所有」ではなく「そこに住んでいたか」です。
補足:趣旨と要件が一見ずれても
「趣旨から少し外れるのに条文要件はクリアしている」場合でも、租税特別措置(減額)は要件を満たせば適用できます。趣旨を理由に適用を否定できるのは、条文・通達に明文の除外がある場合に限られます。
7. 参考:「家なき子」という通称の由来と、それが生む誤解
この論点の混乱の根っこには、特例の通称そのものがあります。
「家なき子」は条文にない“通称”
「家なき子」は法令用語ではなく、実務・メディアで使われる俗称です。条文上は措法69条の4第3項第2号ロ、国税庁の表記でも「被相続人と同居していない親族が取得する場合」等とされ、「家なき子」という語は使われていません。持ち家がなく賃貸等に住む相続人(転勤等で同居できず、親の死後に実家へ戻ることが想定される人)を主な対象とすることから、「持ち家がない子」という意味で「家なき子」と呼ばれるようになりました。
この通称が誤解を生む
「家(=持ち家)がない子」という語感から、「持ち家(不動産)を持っていると家なき子ではない=使えない」という誤解が生まれやすくなっています。しかし実際の判定基準は「持ち家の所有の有無」ではなく「過去3年以内の自己等所有家屋への“居住”の有無」(+現に住む家屋の過去所有の有無)です。通称と条文の実態がずれているため、迷ったら通称ではなく条文の文言に立ち返ることが、誤解を避けるコツです。